よい聞き手はよい話し手、書き手に 川崎市の元小学教師が『言葉の貯金箱』を自費出版
■「独話」で自己表現尊ぶ
この教師は、昭和35年度から小学校で教鞭(きょうべん)をとった笠原登さん(86)。同51年度に赴任した同市立中原小学校で、話し言葉に重きを置いた「独話活動」に勤しんできた。「独話」とは「独り言」というより、「スピーチ」の意味合いで用いており、子供たち一人一人の自己表現を尊ぶというニュアンスで用いられている。
授業では、笠原さんが独自に考案するなどした短い話を子供たちに語り聞かせ、それに対する受け止めをめいめいが自由に披瀝(ひれき)するやり方とした。つまりは「独話」を促すのである。テーマとしては人間愛だったり、日本語の妙味だったり、季節を表す言葉だったり、友情や教訓だったり…。
子供たちは、そこでのやり取りの中から気に入った言葉をノートに書きためることで、いつとはなしに豊かな表現力が身につく、というわけだ。タイトルの『貯金箱』には、こうした笠原さんの思い入れが反映されている。
■言葉の感度を磨く
書籍は6部構成で、「春うらら」「江戸しぐさ」「くつ箱ポスト」「山椒(さんしょ)は小粒でも」「連想は十人十色」「でこぼこ道」など、笠原さんが話題にした59にのぼる短い話が取り上げられている。その後には「実践余話」として、子供たちの反応や思いもしない教育効果が出たことなどが紹介されている。
例えば、まるで理解できないという意味のある「陳紛漢」(珍紛漢などとも)という言葉の由来を子供たちに説明したところ、ほかの言葉に関する由来についても関心が高まったことが挙げられている。このときの子供の反応が面白い。「まさか、人の名だったとは」「母に自まんげに話しました」「(トンチンカンは)人の名前ですか」(原文のまま)…。こうした経験の積み重ねが語彙を増やす効果を生み、使う言葉の感度をおのずと研ぎ澄ませていくことになる。
■感謝の便りが絶えず
よい聞き手はやがてよい話し手となり、いつしかよい書き手となる-。笠原さんが授業で貫いてきた教育理念だ。そんな心情が当時の子供たちに届いていたのだろう。今でも、近況を報告するかたがた、感謝の気持ちをつづる便りは絶えない。笠原さんは言う。
「多くの教師にとって、実用的な教材になればうれしいけれど、大勢の子供たちにも読んでほしい。『言葉の味わい』を楽しんでもらえれば、自費出版したかいがある」
書籍は送料込みで2千円。購入を希望する人はファクスで申し込む(044・966・3038)。