加藤よしき 傑作と失敗作の間に目を向けて【著者に聞く】
まずはメジャー大作で活動していて、日本でも知名度があること。そして今なおキャリアを形成している最中のスターを選んでいますね。
そのため元の連載では優等生として扱ったウィル・スミスが、アカデミー賞授賞式でビンタ事件を起こしたりもしましたが……。良くも悪くも目が離せない人物を扱っているとも言えます。
──映画に興味を持ったきっかけは?
子どもの頃に観た『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』の影響は大きかったですね。ハン・ソロ凍った! ルークがやられた! えっ、終わった? ……と、衝撃を受けまして。父がこの作品のメイキングビデオも買っていて、映画は裏側も凄いなと驚いたものです。
そうした少年時代に追い打ちをかけるように、『スター・ウォーズエピソード1/ファントム・メナス』で世間がお祭り騒ぎになりまして。あの盛り上がりの経験も大きいですね。とにかくハリウッドは凄いんだぞと脳ミソに叩き込まれました。
──スターたちの歩みを執筆する中で、ハリウッドの変化も感じますか?
スターありきの超大作企画が減ってきている印象はあります。1980~90年代はスターシステムというか、すでに人気のあるスターをどう活かすのかを重要視して、作品が組み立てられていたのだと思います。今は反対に、企画ありきなのかなと。
そんなふうに映画界が変わっていく中で、昔も今もスターたちは自身のあり方を模索しているのだと思いますね。本でも触れましたが、『トップガン』の新作が絶好調のトム・クルーズすら、不調な時期はありました。たぶん今も、飛行機にブラ下がりながら、自分のこれからについて考えていると思いますね。もっとも、考えるのに疲れたから、リフレッシュのためにブラ下がっているのかもしれませんが。
ただ、映画業界が変わっても、スターという存在は、これからもあり続けると思います。その時代その時代に応じて変化できる人が、次世代のスターとして輝くのかなと。
──取り上げられたスターたちは、変化を恐れない人が多いですね。
そうなんですよ。大学を中退している人もやけに目立ちますし(笑)。得意とするジャンルは異なるものの、チャレンジを続けている人ばかりですね。
映画界で生き残る手立てを探りつつ、ファンが自分に何を求めているかも見据えて、さらに己の殻を破り続けないといけない──。スターとは、様々な視点で自己分析をしつつ、変化を恐れない人たちなんだと思います。安定とはほど遠く、しかも地道な努力と天性の才能、あとは運にも左右される仕事ですね。書きながらつくづく、楽な仕事ってないなぁ、と何度も痛感しました。
──本書がどのように読まれてほしいとお考えですか?
毎日しんどいと感じている人に読んでほしいです。何より僕もしんどいので、同じ気持ちの人に届いてほしいですね。スターの山あり谷ありの人生を知って、こういう生き方や考え方もあるんだと、少しでも楽になってもらえれば幸いです。もちろん規格外の「伝説」を読んで、ひと笑いしてもらえるだけでも嬉しいです。
あとは、スターを軸にした作品ガイドとしても使えるかもしれません。
僕が思うに、大半の映画は、50点から80点くらいの間に収まるものです。傑作と駄作の中間には、無難に面白い映画が無数に存在しているわけで。この本では、取り上げた俳優の安定期の作品として、そういうタイプの映画にも多く触れています。
誰かの60点は、誰かの100点かもしれないと考えて僕は映画を紹介しています。この本を読んだ方が、「世間では60点でも私にとっては100点」といった作品に出会えたなら、一番嬉しいです。映画ライター冥利に尽きますね。
(『中央公論』2022年11月号より)
◆加藤よしき〔かとうよしき〕
1986年生まれ。映画ライター、ゲームのシナリオライター。雑誌やウェブ媒体、パンフレットなどで執筆。現在の主な寄稿先はウェブメディア「tayorini by LIFULL介護」「リアルサウンド映画部」など。