世界に6人しかいない「座持ちの達人」に教わる、惚れさせる技術
世界にたった6人しかいない「ヨイショ芸」のエキスパート「幇間(ほうかん)」。前編「話し相手を気持ちよくさせる秘術を知る「幻の芸人」が生存していた」では、その仕事ぶりと歴史を紹介した。「座持ちの良さ」は世界一のプロのタイコモチに学ぶ、絶対に人に好かれる「話し方」とは。
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ども! ちは!
浅草で幇間(ほうかん)をしております、松廼家八好(まつのやはちこう)でございます。
コロナ禍もあって、浅草の花街は文字通り灯が消えたような時期が続きました。皆様方も宴会や酒席から、ずいぶん足が遠のいたのではないでしょうか。なかには、テレワークで人と顔を合わせることもほとんどなかったという人もいらっしゃるかもしれません。
それでも結局、世の中は人と人。顔を合わせる人間関係があって初めて成り立つものです。幇間という字は「間を幇ける(たすける)」と書きます。お客さんとお客さん、あるいはお客さんと芸者のあいだを取り持ってたすける。
よく「座持ちがいい」なんて言い方をしますが、宴席でふとシラケそうな間ができたら、それをたすけて場を持たせるのも私どもの仕事でございます。
みなさんも、食事の席や会議、パーティで「どうやって場を持たせればいいんだろう」「きまずいなあ」「もっと楽しくお話したいのに」なんて感じることはありませんか。そんなときに、「間をたすける」コツを、いくつかご紹介したいと思います。
「どうも、いらっしゃいませ」
芸者衆と一緒にお座敷に上がって、まずは正座でしっかりお辞儀をして、御挨拶をします。
でも、一つだけ皆さんのお辞儀のしかたと違う点がございます。それは「目線は必ず上のほうに残しておく」ということです。普通はお辞儀をするのにしっかり頭を下げ、畳を見ます。そうでなければ失礼ですからね。でも、私ども幇間の場合は、お客さんや芸者衆のほうを見ながら頭を下げるのが正式なお辞儀なのです。
これは、お座敷の空気を一瞬で読むためのテクニックです。まだ商談モードでお客様たちの緊張がほぐれていないのか、お酒が入ってきて和んだ雰囲気なのか、一瞥して察知しなければいけません。
それによって「どうも」の声も変わってきます。緊張気味で沈んだ空気ですと、思い切って「どうもーーー!」と高い調子で挨拶すると、場を盛り上げるきっかけになります。もちろん、商談の真っただ中という風情なら、じっとおとなしくしていますけどね。
顔色をうかがうというと、現在では必ずしもいい意味にとられませんが、会議や宴席をうまく回したいなら、なによりもまず同席されている方たちの顔色を見る。これは鉄則です。
かといって、お辞儀の仕方まで真似しないでくださいね。挨拶の仕方も知らないヤツだと思われてしまいます。