着ぐるみで館内をパトロールし、古着で犬を大きくする。金沢21世紀美術館で奈良美智のプロジェクト型作品を展示
月夜曲」。この展覧会で生まれた《Dog-o-rama》や《Lonely Moon/Voyage of the
Moon》といった作品を紹介するコレクション特別展示+コミュニケーションプログラム「奈良美智―Dog-o-rama」が金沢21世紀美術館で始まった。会期は9月18日まで。
1959年青森県生まれの奈良は、88年に渡独し93年にデュッセルドルフ芸術アカデミーを修了、以後ケルンを拠点に活動。2000年に10年以上を過ごしたドイツから日本に拠点を移したあとは、各地で展覧会を実施していく。06年、奈良は開館から2年を経た金沢21世紀美術館で「Moonlight
Serenade ― 月夜曲」を開催。これは同館の「開かれた」機能を前提に構想されたもので、様々なプログラムが実施された。
本展「奈良美智―Dog-o-rama」は、当時収蔵された作品やプログラムを改めて紹介する企画だ。
企画のタイトルにもなっている作品《Dog-o-rama》は、子供たちが奈良が考案した着ぐるみをまとい美術館をパトロールする「Pup
Patrol」と、巨大な犬のぬいぐるみを完成させる「Pup Up the Dog」のふたつのプロジェクトから成るものだ。
今回も「Pup
Patrol」では4歳から小学生までの子供たちが、着ぐるみを着て館内を定期的にパトロール。ボランティアメンバーがパトロールのリーダーとなり、子供たちの活動を見守っている。来館者はこのパトロールと出会うことで、鑑賞体験が大いに刺激されるだろう。
「Pup Up the
Dog」は展示室に横たわった巨大な犬のぬいぐるみに、会期中持ち寄られた古着などの布類をつめて完成させるというもの。最初は痩せて床に伏せているように見える犬も、多くの来場者の力で生き生きとしてくるはずだ。
また、奈良が本館の「開かれた」機能を前提としつつ「Moonlight Serenade ―
月夜曲」を構想する際に描いたドローイングも展示。展覧会が行われる「場」の持つ意味を考え、作品に取り込んでいく奈良の思考をたどることができる。
本展からは、奈良が作品を発表する場の持つ機能や形態を考え抜き、展覧会をつくっていることがよくわかる。広く世界に知られている印象的な少女像のイメージから一歩深入りし、奈良の美術家としての思考を垣間見ることができる展示と言えるだろう。