早世の芥川賞作家、赤染晶子さんのエッセー集がヒット…手がけたのは「ひとり出版社」
エッセー集は「じゃむパンの日」(税込み1980円)。新聞などで発表した55編が収録されている。作品には、書道の練習にひたすら好きな俳優の名前を書き続ける母親、葬式に現れて手相を見たがるベートーベンに似た男といった、ちょっとおかしな、でも憎めない人物が次々に登場する。
「2023年とっておきの本だ」「クスッと笑える生活目線が、じんわり伝わってくる」――。ネットで反響が広がり、初版は3000部ながら、増刷を重ねて半年余りで2万部に達した。
出版した「パームブックス」(東京)は、新潮社の元編集者の 加藤木(かとうぎ)礼さん(45)が設立したひとり出版社だ。加藤木さんは、かつて赤染さんを担当し、没後に作品3冊の増刷が途絶え、「書店で見かけなくなったことが、もどかしかった」と手がけた経緯を話す。
加藤木さんが、赤染さんと出会ったのは新潮社時代の07年だ。
赤染さんは当時32歳。京都府のパスポート窓口で働きながら執筆した短編「初子さん」で3年前に文学界新人賞を射止めていた。同じ年に当時19歳の綿矢りささん、20歳の金原ひとみさんが芥川賞を受賞したこともあり、あまり目立たない作家の一人だった。
だが、加藤木さんは、日常を切り取る独特の視点とユーモアに才能を感じた。小さな声で、控えめに面白いことをぼそりと言い、口癖のように京言葉で「嫌やわぁ」と、はんなり笑う。そんな人柄とは対照的に、執筆では妥協がなかった。
加藤木さんが担当編集者になってからも、書き始めた作品に満足がいかず、何度も一からやり直した。