小田和正さん、重松清さん、橋本愛さんが集まった場所 ソングライター・水野良樹さん
水野良樹さん(以下、水野):03年にインディーズデビュー、06年にメジャーデビューして10周年を回ったあたりで、メンバーとは「ここでいったん区切りを付けるべきだよね」みたいなことは話していたんです。たくさんの方々に自分たちの音楽を聴いてもらえて、あこがれていた会場でもライブができるようになって、大学生の時に遠く夢見たことが次々とかなう中で、僕たちも30代半ばを超えていき……と、10代からスタートして、ずっと青春ごっこで続けていたのが、だんだんそれだけじゃ立ち行かないということも分かってきていた。ここでいったん区切りを付けないと前に進めない、という課題意識はあったんです。
澤本:活動休止中、水野さんはいろいろな方に楽曲を提供したりして、ただ休んでいるのではなく、意志を持って何かやっている感じがしていました。それも含めて、やっぱり全体が水野さんによって、きちんとディレクションされているなあ、と僕は思っていて。
――澤本さんによる「水野さんクリエーティブ・ディレクター説」の表れですね。
●「止める」ことをネガティブでなく伝えたい
澤本:前回、水野さんのことを、ソングライターであると同時に、クリエーティブ・ディレクターであると僕は語ったわけです。別に無理にクリエーティブ・ディレクションに寄せなくてもいいんですけど、そう思ってました。
水野:そういうことで、僕たちの音楽活動に、いったん区切りは必要でしたが、本人たちはめちゃくちゃ前向きだったんです。でも、たとえば解散とか活動休止とか、何かを「止める」ことは、世間にはネガティブに伝わりがちです。その、どうしてもネガティブに伝わるところを「どうしたらいいかね?」と、メンバーで話し合っていた時に、「これは放牧だね」って吉岡(聖恵)が言って。それで、みんなで牛の着ぐるみを着て「放牧宣言」を行うにいたったということでした。
澤本:あえて話をクリエーティブ・ディレクションに寄せると、話し合いの中で吉岡さんがぽろっと言った「放牧」って言葉を拾うのって、まさにそうじゃないかと思うんですね。「あ、いいじゃん。じゃあ、着ぐるみ着ようよ」みたいな感覚は。
水野:あの時は、スタイリストさんが一番びっくりしていました。「え? 牛の着ぐるみ?」って。
――休止とか引退会見って普通はスーツじゃないんですか、と。
澤本:でも、そうしたことで、本気感もあるけど、ユーモアもあって、この人たちはまさか牛の着ぐるみで終わらないだろう、おそらく戻ってくるだろう、というのが伝わりますよね。そういうメッセージもちゃんとあるじゃないですか。言葉だけじゃなくて、全体のニュアンスで自分たちがやりたいことを伝えるというのは、本当にクリエーティブ・ディレクションそのものだと思いますし、あと、それこそ「放牧」という言葉は、YMOの「散開」に通じるすごさがあって。
――「散開」はすでに歴史的タームですね。
澤本:「散開」は「解散」じゃないから、また戻ってくれるだろうな、というのがありましたよね。「放牧」も、絶対にいつかは戻ってきますからね。