伝えたいのは「祇園祭の心」 唯一の「生稚児」乗せる長刀鉾、支え続ける町衆の思い
長刀鉾として正式に稚児を迎える「結納の儀」に始まり、八坂神社を参拝する「社参の儀」、稚児舞や太刀の扱いの稽古。7月17日の前祭の山鉾巡行の本番まで、井尻さんは稚児とともにさまざまな行事に臨む。
「格式張って、ともすれば非効率に思える行事の一つ一つに意味があります。時間と経験を重ねることで、長刀鉾の稚児は、段々と稚児になっていくんです」。
山鉾巡行の朝、強力の肩に担がれ鉾へ乗り込む稚児の表情は、凛として気高い。四条通では、斎竹を立てて南北に張られた注連縄を切る「注連縄切り」に臨む。
鉾の上で、井尻さんは稚児の背後にそっと控えている。「路上の賑わいも、鉾の上には不思議と届きません。それだけ気持ちが集中しているんですね」。四条通の先、鴨川の向こう側には八坂神社の西楼門が小さく見える。やがて稚児の振るう太刀が注連縄を切り落とし、町衆の情熱が結集した山鉾巡行の始まりを告げる。
この2年間、改めて祇園祭を見つめ直す時間を過ごしたという井尻さん。過熱していた京都観光の人気の陰で、本来の意味が見えにくくなっていたのではないかー。自身が稚児を務めた幼少の記憶を辿り、今一度、祇園祭の本義に思いを巡らせたという。「形はもちろん大切ですが、一番伝えなければならないのは、祇園祭の心の部分なんです」。
時代が移ろうとも変わらぬ町衆の心が、華やかな山鉾巡行を支え続ける。
(文・龍太郎)
疫病退散を祈る祇園祭の山鉾巡行は、山鉾建てに始まり、お囃子、宵山行事、本番の巡行と、その全てにおいて連綿と受け継がれてきた文化と技術が息づいています。山鉾巡行を中止とした昨年、一昨年は、各保存会の代表者が四条通を徒歩で巡行しました。どのような状況であっても祇園祭の文化を継承する。そう願って、今年の夏に思いをつないできました。新型コロナの感染防止を徹底し、万全の体制で望みたいと思います。
今年はいよいよ、鷹山が後祭巡行に復帰し、祇園祭が本来の形を取り戻す画期的な年です。楽しみに待っていた皆さまに、元気をお伝えできるような祇園祭にしたいと願っています。
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疫病退散を神に祈る祇園祭。今年は3年ぶりに、八坂神社の神輿渡御と、町衆による山鉾巡行が行われます。その裏には、新型コロナ禍にあっても懸命に祈りをつないできた、祇園祭を支える人々の変わらぬ思いがありました。京都の夏が、いよいよ始まります。