風景+後ろ姿=ポートレート。場所を通して見える新しい肖像。
写真家のジョルディ・ベルナドは、6年前から取り組むこのポートレートシリーズ「IDプロジェクト」をこう説明する。
「芸術や科学、社会活動など各分野で活躍する、敬愛する人々に手紙を送り、彼/彼女らの肖像写真を撮るために、自身にとって大切な意味を持つ “特別な場所“ を指定してもらいます。そして、その場所へ共に赴き、“背中に” 向けてシャッターを押します。また撮影時に交わされる言葉は、プロジェクトには含まれていません」
その結果、会場に展示されるのは、ベルナドらしい対称的な構図を持つ、様々な風景や部屋とそこに立つ人物の後ろ姿を捉えた写真たち。そして私たちは「写された場所の地名と被写体の名前および職業」の情報を手がかりに、なぜ彼/彼女らが「その場所」を選んだのか読み解くことを求められる。例えばイエメン生まれのナダ・アル・アダルは、10歳で家族に結婚を強要され、拒絶メッセージのビデオをYouTubeに投稿したことで人権活動家となった19歳の少女だ。写真に写る場所は亡命に追い込まれた際に彼女を受け入れてくれた町であり、花嫁姿なのは抗議の意味だろうか。
本展では、ここに紹介した6人のほか、料理人のフェラン・アドリアやノーベル文学賞受賞者の高行健など、計14名の肖像写真を展示。そして、このプロジェクトは今後も続いていくという。
なぜ後ろ姿を写すのか。それは顔ではなく場所へ注意を向けるためでもあるが、それ以上に背を向けて先に立ち、それぞれの場所へ鑑賞者をいざなうことで、「あなたにとって特別な場所はどこか」という問いを投げかけるためだ。会場内に円形に並べられた各写真を鑑賞した後、私たちは自分自身の「特別な場所」を探し始める。
〈National Art Museum of Catalonia〉Parc de Montjuïc, Barcelona TEL (34) 93 622 03 60。~2022年9月4日。10時~20時(日~15時)。月曜休。12ユーロ。ベルナドの公式サイトでは、他の写真も見られる。