建築家と陶芸家の二刀流 奈良祐希の「土建築」が示す、人間の未来
分野は異なるが、世界が注目する二刀流がいる。金沢を拠点にする陶芸家であり、建築家の奈良祐希だ。
「僕としては処女作となる建築が竣工間近です」
そんな連絡をもらったのは、春一番が吹く頃だった。コロナ禍の紆余曲折を経て、新しいシェア型オフィス「Node」が完成した。
これまで、建築設計に使われる3DCADやプログラミングなどを活用し、制作する異色の陶芸家として紹介したことはあるが、今度は陶芸的なアプローチを建築に取り入れたという──。奈良が拠点にする金沢へ向かった。
■コロナ禍で「権威的な象徴」から脱却、生まれた新発想
奈良が手がけたシェア型オフィスは、再開発が進む金沢駅西エリアで、金沢港からほど近くにある問屋町にある。50年前に全国で初めて整備された卸商業団地があり、北陸のものづくりや物流拠点となっている。工場やオフィスの建物が集まる地域の玄関口に、奈良が手がけた異色の建物がある。
武家屋敷の土塀を連想させるような土の温もりを感じられる壁と、「のこぎり屋根」にも見える傾斜のある三角の屋根が印象的だ。2つの建物の間には、茶室の路地を思わせる通り道「緑のミチ」がある。県道東側から街路樹の流れを引き込むように設計したという。
金沢の住宅メーカー「家元」の新社屋「Node(ノード)」だが、地域に開かれたシェア型オフィスとなっている。家元社員の専用スペースだけでなく、アートギャラリーやカフェレストラン、レンタルオフィスなどが共存している。
奈良に最初に依頼があったのはコロナ禍前の2019年ごろ。当初は本社という位置付けで高層ビルが想定されていたが、コロナ禍でリモートワークが広がり、必ずしもオフィスで働くことは必要では無くなった。そこで視点を切り替え、新社屋として2階建てにし、オフィス低層部に共有スペースを設けることに。
「コロナ禍の変化で、本社を建てる意味がなくなってしまったんですよね。社屋という権威的な旧来型の建築プロトタイプから抜け出して、会社が街と主体的につながり、地域社会にソフト面でもハード面でも貢献することが求められているのでは?とご提案しました」と振り返る。
■プラントハンターと共創した「緑のミチ」の仕掛け
そんな地域に開く象徴となっているのが、先述の緑道「緑のミチ」だ。飛石に使用されているのは、金沢市郊外に連なる戸室山周辺から産出されたもの。金沢城の石垣や、庭石として使用されてきたものだ。そこに「シャラノキ」と呼ばれる白い椿が梅雨の時期に咲く木々が植えられ、爽やかな印象だ。
プラントハンターとして注目される、西畠清順を「緑のミチ」のデザイン監修に起用した。世界各地のランドスケープデザインや造園工事を手がけるスペシャリストが、地場に根付く植物や飛石を探してきた。茶室に誘うような路地を作るのも、西畠と議論して生まれたものだ。
また、そこに交差するように作られたのが「街のミチ」。土建築の外観からは想像しづらいが、建物の内側はガラス張りになっており、その道を通るとアートギャラリーやカフェが見えて街中でウィンドーショッピングをするような気分になる。
金沢に本店を置く人気フルーツ店むらはたの「フルーツパーラーむらはた」が出店し、駅西側には少ない、本格フルーツパフェを堪能することができる。