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「情報はネット」の時代にあえて現場へ…記録係買って出た“棋士の卵”の心意気
2022-11-07
「情報はネット」の時代にあえて現場へ…記録係買って出た“棋士の卵”の心意気

 竜王戦七番勝負は2日間にわたる長期戦だ。棋界トップを争う二人の火花散るような死闘はABEMAで観戦しているだけでも息が詰まるような緊張感なのだが、その戦いを初手から終局まですぐ間近で見届ける存在がいる。
 記録係だ。


 竜王戦では主にプロを目指す奨励会の若者が務めている。トッププロの戦いをすぐ脇の“特等席”で見られるなんて、さぞかし人気の役割なんだろうと勝手に想像していたが、先日、ある棋士から「記録係は以前より人気はないんですよ」と教えられた。
 理由を聞いて納得した。昔はトッププロ同士の戦いですら、棋譜を見るには後日、将棋会館などに足を運び、記録を見たり、新聞の観戦記を読んだりするしかなかったが、最近はリアルタイムにネットで棋譜をチェックすることができるからだ。
 確かに、以前、日本将棋連盟の佐藤康光会長にお話を伺った時、過去の読売新聞の竜王戦観戦記をきれいにスクラップして保管されていて、「トッププロでもこうやって勉強されているんだ」と少し驚いたこともある。
 「わざわざ記録係を買って出るより、家でいろんな対局を見ている方が勉強になるってことですかねぇ」。その棋士は少し複雑な表情を浮かべていた。ところが――。
 先日、静岡県富士宮市で行われた竜王戦七番勝負第3局。読売新聞のWカメラマンの撮影した写真を見て、「ん?」と思った。盤を挟んで向かい合う藤井聡太竜王と広瀬章人八段の姿を写真の奥からじっと見つめている記録係の青年……どこかで見たことがある。
 対局が終わった夜、ご本人にお話を聞き、記憶がよみがえった。
 第3局で記録係を務めた廣森航汰三段、実は昨年の竜王戦七番勝負第1局でも記録係を担当していた。
北海道出身の21歳。聞けば、タイトル戦での記録係はすでに10回ぐらい経験しているという。当然、現在、五冠を保持する藤井竜王のタイトル戦を担当することも多く、すでに今期の第3局で5回目になるというから、驚きだ。
 廣森三段によると、記録係は頼まれることもあるが、彼の場合は自ら立候補して担当することが多いという。タイトル戦の記録係は基本、「早い者勝ち」といい、「今回は申し込もうとした時、第1局はすでに埋まっていたので、第3局をお願いしました」。
 ただでさえ、記録係をやるメリットが減っていると言われている上に、竜王戦七番勝負がスタートする10月はプロ入りがかかる三段リーグの開幕とも重なる時期である。そんな大事な時になぜ2年連続で記録係に立候補したのか。廣森三段の答えにハッとさせられた。
 「対局者と同じ空間で同じ状況で考えることができるって、これほど貴重な機会はないと思います。AIを使った研究も大切だと思いますが、やっぱり自分の頭で考える力を鍛えないと……」
 リアルタイムでトップ棋士の対局が観戦でき、形勢の良し悪しや最善手までAIが教えてくれる便利な時代だ。すぐに「正解」が分かるご時世だからこそ、答えが分からない環境を自ら求めるということか。
 「自分も盤面を見て、一緒に考えて、対局者の指す一手一手が答え合わせになっています」と廣森三段。第3局の封じ手は手が広い局面で、検討室の棋士の間でも予想が割れていたが、廣森三段が▲1四歩をずばり的中させたのも、もしかしたら、対局者と同じ空間で必死に盤面を見つめていたからかもしれない。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/622baa5ca05d2a83dda6e6163a32fab725b91c7b

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