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"装いの力"の正体、異性装から考える
2022-09-27
"装いの力"の正体、異性装から考える

 会期中も会期後も読める新たな批評の在り方を模索。会期後のレビューではなく、会期中の展覧会を彫刻家で文筆家の鈴木操がレビューする同連載。第5回は渋谷区立松濤美術館で開催中の「装いの力-異性装の日本史」。鈴木は同展をどう見たのか。


 この連載が始まった頃からコロナ禍による様々な制限の緩和が進み、しかしロシアのウクライナ侵攻が作り出している世界の不安定化にあってか、世間では「ウェルビーイング」なんていう規範性の強い言葉がちらほらと見られるようになっている。このような、人々の心理的不安を突いて偽の欲望を押し付け刷り込んでくるものに対し、私たち大衆は非常に弱い。こういった個人が陥りがちな通俗的な弱さに対し「装いの力―異性装の日本史」展は、個人が持ちうる活動的な強さを史的に示し、「装い」という実践が展開しうる必要な空間を開くという観点から見ても、非常に充実していたように感じた。まずはこの展覧会が、現代社会において重要なジェンダーやセクシュアリティの現れについて「異性装」という行為に焦点を当てながら日本の文化史の中で系譜的に整理し、丁寧に観客へ開こうとするものであったことは、真っ先に伝えねばなるまい。テーマに対する方法的な丁寧さは、企画者の強い意志のもとでしか発現されない。何かテーマを設けて公共的価値を問う機能を持つ美術館という組織が、「異性装」というテーマの展覧会を組むことの意義は、現在の鬱屈した社会においては特に大きいだろう。「異性装」を系譜的に見せることで、私たちが日々どのような文化的基盤において装い、暮らしているかを多面的に明らかにしようとする意図が展示から具体的に感じられ、非常に示唆に富む内容であった。

 古くは古事記に登場する日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が異性装で行った暗殺の物語から始まり、武家社会の中で戦う様々な女性たちや歌舞伎の一場面が描かれた錦絵の数々、近現代の章では田中千代の「いかり肩スーツ」に、池田理代子の「ベルサイユのばら」の漫画原稿、大野一雄の「ラ・アルヘンチーナ頌」の公演ポスター、女装雑誌「くいーん」、また現在第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館で展示中のダムタイプによる舞台作品「S/N」の記録映像や、ドラァグクイーンによるエンターテインメントダンスパーティーDIAMONDS ARE
FOREVERによる衣服のインスタレーションと、ここに書ききれない程の様々な作品や資料を紹介し、その多岐にわたる品々にもかかわらず非常に見やすい章立て構成であった。また私が足を運んだ日は、老若男女様々な観客に溢れ、その光景はまさに展覧会の注目度を表しているようだった。他方で気になったのは、全体的に男性による女装の表象が割合として多かったことである。この問題については「装いの力」展に対して言及するのではなく、私たちの社会構造の問題として真摯に受け止めるべきものであり、継続してこの問題意識を展開していく必要があるだろう。私はこの問題意識が、広く社会で共有されることを望んでいる。

 ともあれ今回「装いの力―異性装の日本史」展は、社会においてジェンダーやセクシュアリティの問題意識が現れてくる契機を「異性装」を通して開いていくだけでなく、「異性装」という装いを保存し流通させる衣服、絵画、写真、映像、漫画といった諸形式のメディア性を強く再認識させる展覧会でもあったことも指摘しておかなければならない。この企画が、時代を超えて物と物を照応させアーカイヴ性を引き出し強調して扱うことで、広い意味での「装い」に関わる\

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/dbc50182df47ef7bd3a64741aedb7bea50b7c264

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