「面白い」のツボは人それぞれ、聞き手って本当に難しい[山口恵梨子の将棋がちょっと面白くなる話]
前にも書いたかもしれませんが、女流棋士の仕事は、大きく分けると対局と普及活動の二本立てとなります。今回、紹介する将棋解説の聞き手の仕事とは、普及活動の中の一つになります。
具体的な仕事内容は、将棋イベントや将棋番組で、大盤を使って対局の解説をする棋士のサポートをする+司会進行という感じです。将棋番組で左側にいる人だよ、というと分かりやすいかもしれません。
6歳からNHKの将棋番組を見て育った私にとって、聞き手の仕事は憧れでした。穏やかな声の進行も落ち着いていてすごいな、と思ったし、解説の棋士の先生と和やかな雰囲気で大盤の指し手を進めていきつつ、ここぞという時に、現在の形勢とか指し手の狙いなど、鋭い質問をぶつけていく。しかもお美しい大人の女性……。子どもの頃は、ただただすごいなぁと思っていました。
だから、いざ16歳で自分が女流棋士になる、となった時、どんな聞き手になりたいか、どうすれば、いい聞き手になれるのか、結構、真剣に考えたんですよね。
一番難しいなと思ったことは、「分かりやすい」とか「面白い」って実は受け手によって、それぞれ感覚が違うということ。我が家の面々の将棋番組の楽しみ方をみて、気づきました。
ゴキゲン中飛車と早石田しかできない16歳振り飛車党の私はアマ四~五段だけど、相居飛車の序盤解説が全く分からない。しかし終盤は番組を見ながら一緒になって考えられて、そこはかなり面白い。一方、アマ四段の父は、どうも自分が解説を聞いて理解したと思わせてもらった時に喜んでいるようでした。さらにアマ8級の母は棋士の表情や対局の雰囲気、そしてどちらが勝つかを追って楽しんでいる感じでした。
家族3人でも、こんなに違うのだから、初心者から有段者まで全ての層に楽しんでもらう将棋イベントや番組を作るって、ホントに難しいです。でも、女流棋士になった時から、私は少なくとも父と母のそれぞれの楽しみポイントは絶対忘れないようにしようと思って聞き手のお仕事に臨んでいます。あとは、解説の先生と笑いの絶えない掛け合いができる聞き手になりたい、ということでしょうか。
本当は、中倉彰子女流のように笑顔を絶やさず、千葉涼子女流のように自分の意見をしっかり持って突っ込むときは突っ込み、中倉宏美女流のように会話の間の取り方が抜群で、矢内理絵子女流のように、解説の言いたいことをしっかり理解しつつ控えめでいる聞き手が理想だと思うのですが、全部は無理ですよね(笑)。自分がどんな聞き手になりたいかという理想を頭に置きつつ、聞き手を務める番組やイベントの解説対象者はどんな層なのか、毎回、制作チームさんと相談しながら取り組んでいます。