マイナビアートスクエアが銀座に誕生。「HB.」が見せた「展覧会のOS」にも注目
マイナビは2022年よりアーティスト主導のアートフェア「ARTISTS’ FAIR
KYOTO」を支援するとともに、今年6月には同社がコレクションした25作品を竹橋の社内に展示する「マイナビアートコレクション」展を開催するなど、アートとの距離感を縮めてきた。
同社がオープンさせた
「マイナビアートスクエア」は「人々の想像力を喚起し、共感や考察へと導くアートの力を通して、多くの方々の可能性と人生を広げていくこと」を目的とした施設。「アート思考」を入口にキャリア形成に役立つナレッジやスキルを習得できるプログラムを提供するとともに、多岐にわたる文化が内包されたテーマを持つ現代美術の展示などを行う場所だ。アドバイザリーボードには、伊藤亜紗、塚田有那、ドミニク・チェン、山峰潤也が名を連ねる。
この事業を推し進めてきたマイナビの落合和之(株式会社マイナビ執行役員、展示会事業準備室)は、「コロナを経て大学生の就活にいままでにない大きな変化が生じている。そのなかで人生の指針を得るには何が必要かを考えたとき、アートが役に立つと考えた」と、その設立背景を語る。
近年、マイナビのようにアート事業としてスペースやプロジェクトを手がけるケースは増えつつある。しかしそこで課題となるのは、事業をいかに継続できるかという点だろう。そうした意味で、今回のスペースのこけら落としとなる展覧会は非常に大きな意味を持つ。
展覧会「Happy
Birthday」は、キュレーター、アーティスト、文筆家からなるキュレイトリアル・コレクティブ「HB.」(髙木遊、三宅敦大、立石従寛、月嶋修平)によるもの。
新たに生まれたアートスペースの在り方と可能性を考察し、提案することを狙う本展には作品が置かれておらず、作家も参加していない。ただHB.による空間だけが広がっている。しかしその空間こそが、展覧会の概念や展示スペースを問い直すものだ。
会場には「展覧会のテンプレート」ともとらえられる「ここに作品」「ここから観る」などの言葉が随所に貼付されており、まるでスペースの説明書のようにも見える。
また展示プレパレーター(インストーラー)の「TRNK(トランク)」とコラボレートして制作された木製の什器は、作品を上に置くことなく、ただそれとして並べられている(これらは今後も同スペースで使用される予定となっている)。
加えて、照明や音響なども「現時点で考えられる限界値」(HB.)がわかるように設定されている。
こうした言葉や什器、照明などは「展覧会のOS」のようなものであり、いまここに参加していないアーティストやキュレーターに、「将来この場で行われる展覧会・作品」を想像させる役割を果たしていると言える。
HB.のメンバーは、この展覧会を「今後、ここで展示するアーティストたちへの祝祭的な空間」と話す。まるで「展覧会前の展覧会」とも言えそうな本展こそが、マイナビアートスクエアという誕生したばかりのスペースに驚くほどフィットしている。アーティストやキュレーターだけでなく、鑑賞者も展覧会というフォーマットを再考する機会となりそうだ。