絡まるツタ・図書室の匂い…郷愁誘う廃校舎、移築で河瀬直美さんプロデュースのパビリオンに
パビリオン「いのちのあかし」は、万博のテーマ事業「いのちの輝き」を具現化する8パビリオンの一つ。「森の中の映画館」をテーマに「昔からここにあったかのような」校舎の中で、来場者がスクリーン越しに世界の人々と対話する。木々に囲まれながら、その対話の記録を見ることもできる仕掛けだ。
旧折立中は1952年(昭和27年)に建設。木造2階建ての2棟が南北に並び立つ。少子化で2012年に閉校し、小学校の仮校舎となって以降はほとんど使われてこなかった。2棟とも会場の大阪・ 夢洲ゆめしま に移築され、京都府福知山市の1棟と合わせた計3棟がパビリオンとなる。
この日の安全祈願祭で、関係者が玉串を奉納して工事の無事を祈った後、河瀬さんが構想を説明した。部材はできるだけ移し、建具や窓、置かれた小物も活用する。5月23日には廃校舎に絡まっていたツタを採取しており、移築した校舎の周りに植える意向だ。来年4月までに解体は終了する予定。
「あえて、ノスタルジーや手触りを感じられるパビリオンにしたい」。廃校舎を活用する理由をそう答えた河瀬さん。1年前、各地の廃校舎を探して回った。旧折立中を見た瞬間、「『あっ、きたー』と感じた。壁の焼き杉板や図書室の匂いまで、初めて来たのに懐かしい」と候補に選んだ。村も譲渡を決めた。
小山手修造村長は「校舎に新たな歴史を刻んでいただいて感謝しかない」と述べた。万博後の活用法は決まっていないが、河瀬さんは「夢洲で新しい価値を生み、またどこかで生きていってくれたら」と願った。
式典の後には、河瀬さんらと折立地区の住民25人との交流会が開かれた。ロケ地の住民と協働し、映画にも出演してもらうのが〈河瀬流〉。パビリオンでもその手法を取り入れ、「十津川の人たちもパビリオンに座ってほしい」と熱望した。
校舎内の教室で車座になって、河瀬さんが住民に校舎の思い出を尋ねた。「階段の手すりを滑って遊んだ」「ギシギシ鳴る感じがいい」などと口々に語る住民に、河瀬さんがパビリオンへの「出演」を要請した。
子どもの頃に校舎に通った元小学校教諭(70)は、こう語った。「どんな形でも校舎が残るのがうれしい。ぜひ3人の孫を連れて会場に行き、世界の人と交流したい」