「誘拐結婚」をきっかけに訪れたキルギスで感じた日本人との共通点 写真家・重信正嗣〈dot.〉
2017年夏、重信正嗣さんは中央アジアの国、キルギスを訪れた。すると、日本人にそっくりな顔の人たちと出会った。
「ほんとに自分の友人じゃないか、と人違いするくらい同じ顔の人がいました。実は、日本人とキルギス人は祖先が同じで、山(もしくは肉)が好きな人はキルギスに残って、海(もしくは魚)が好きな人は日本に行った、という逸話を現地で聞かされたくらいです。日本に対してもすごく親近感を持っている」
かつてキルギスは旧ソ連の統治下にあった。第2次世界大戦後、元日本兵がキルギスにも抑留され、彼らが建設した建物が今も残っている。「それに対するリスペクトもあると、聞きました」。
■さらにアジアの奥へ
もともと重信さんは信仰の厚いチベット人に引かれ、15年ほど前から中国やインドをたびたび訪れてきた。
08年、チベット文化圏にある四川省・九寨溝(きゅうさいこう)などを訪れた際、高齢の女性が寺で祈りをささげる姿にレンズを向けると胸を打たれた。
「なんで、チベットの人って、これほどまでに信仰心が顔ににじみ出ているのだろう、と思いました。それをきっかけにチベット自治区に行ってみたいと思った」
重信さんは翌年からチベット自治区に通い始め、さまざまな場所を訪れた。
「ところが、自治区内は中国政府の同化政策がすごく進んでいて、チベット文化が失われつつあることを目の当たりにした。それで、よりチベットらしさが残っているインド北部のラダック地方を12年に訪ねた」
そこで重信さんはムスリム(イスラム教徒)の女性と出会う。
「聞くと、パキスタンとの国境の町から来たそうで、紛争が起きると、砲弾が飛び交うと言う。それで興味を持って、14年にパキスタン北部のフンザを訪れました。さらにアジアの奥へ行ってみたいと思って、17年に訪れたのがキルギスでした」
■ウクライナ系住民も
重信さんがキルギスに興味を持った直接のきっかけは、「誘拐結婚」を知ったことだった。それは、この国に古くから続く慣習で、若い女性を誘拐し、妻にする。女性への人権侵害であり、国際的にも問題視されている。