漫画・アニメ展、公立美術館で続々 高まる文化・美術的価値
◇関連する民俗・考古学資料展示
「子どものころからガンダムが好きだった。美術館に行ったのは数年ぶり。予想以上に見応えがあった」。札幌市中央区の道立近代美術館で昨年開かれた「富野由悠季(よしゆき)の世界」展。ガンダムなどを手がけたアニメ監督の富野由悠季さんのこれまでの仕事を紹介する特別展で、訪れた同市の40代男性は満足げに振り返った。
7月には札幌芸術の森美術館(同市南区)で、十勝地方の農業高校を舞台にした漫画「銀の匙(さじ) Silver Spoon」の原画などを集めた特別展が開催される。男性はこの特別展も見に行く予定といい、「芸術には詳しくないが、漫画やアニメの展覧会は気軽に行ける」と話す。
富野さんの特別展のほか、2020年末には「妖怪ハンター」などで知られる漫画家・諸星大二郎さんのデビュー50周年を記念した「諸星大二郎展 異界への扉」(道立近代美術館)、昨年は現代アート作家たちがドラえもんから着想を得て作品を創作した「THEドラえもん展」(札幌芸術の森美術館)など、漫画やアニメがテーマの特別展が相次いで開かれた。
諸星大二郎展を企画・発案した道立近代美術館学芸員の大下智一さんは「コロナの感染拡大で海外の作品展が企画しにくくなったことと、漫画やアニメが表現の一つとして一般的に認められてきたことが大きいのでは」と推測する。諸星大二郎展では漫画の原画だけでなく、作品に関係が深い民俗学や考古学の資料も展示した。「原画展だけならデパートでもできるが、美術館ならではの展覧会になった」と話す。
◇保存・収集「記録が残る」
漫画展の開催で、普段は美術館に訪れない客層を期待する声もある。昨年、漫画家・安野モヨコさんのデビュー30周年を記念した「安野モヨコ展 ANNORMAL」を開催した道立釧路芸術館(釧路市)では期間中、作品のファンとみられる30~40代の来場者が普段よりも増加した。担当者は「地元の人でも芸術館に来たことがない人もいるが、『安野モヨコ展』は施設を知ってもらう大きな一歩になった」と振り返る。
アニメや漫画をテーマにした展覧会の増加は、19年に東京国立近代美術館(東京都千代田区)でアニメ映画監督の「高畑勲展」が開催されたことも大きいという。13年に札幌芸術の森美術館で開かれた「ほっかいどう大マンガ展」に携わった道教育大の伊藤隆介教授(視覚メディア)は「国内トップの美術館が『アニメは美術である』とお墨付きを与えた」と指摘する。
諸星大二郎展は昨年、全国の公立美術館約150館が加盟する美術館連絡協議会(美連協)が最も優れた企画に贈る20年の「美連協大賞」を受賞した。アニメや漫画の文化的価値は高まっている。
これまで、漫画の原稿などは時間の経過とともに散逸することが少なくなかった。伊藤教授は「学芸員が主体となって企画した諸星大二郎展や富野由悠季展はいい例で、美術館で開催することで保存・収集され、文化的記録が残る」と話している。
◇近年美術館で開催された主な漫画やアニメの展覧会
2020年6月…愛するひと やなせたかしの世界(道立函館美術館)
2020年11月…諸星大二郎展 異界への扉(道立近代美術館)
2021年4月…THEドラえもん展(札幌芸術の森美術館)
2021年7月…江口寿史イラストレーション展 彼女(道立旭川美術館)、安野モヨコ展 ANNORMAL(道立釧路芸術館)
2021年10月…水木しげる 魂の漫画展(道立帯広美術館)
2021年11月…富野由悠季の世界(道立近代美術館)