美村里江のミゴコロ 名人級の梅干し
もともと梅干しが大好きで、特に塩だけで漬けた酸っぱくて塩っぽい昔ながらのものが好みである。一番気に入っているのは、夫のご先祖さまが眠っている山奥の道の駅で購入したもの。ときどき取り寄せて常備している。それ以外にも塩を全く使っていないものや、20年前のものなど、気になった新たな梅干しの探索も楽しみになっている。
そんな梅干し好きとしてワクワク受け取ると、気取りのない透明タッパーに入れられたそれは、淡い色味で赤ジソは使っていないタイプ。見るからに柔らかそうで、仕事への移動中に思わず一つ口に運び、驚いた。
なんていい香り! 紀州南高梅は言わずと知れた名産品、1粒いくらの高級なものも食べたことがあるが、こんなうっとりする香りは初めてだ。塩気も抜群、微量使われているだろう蜂蜜が、控えめに梅の味を引き立てている。
あまりに感激したので、つい現場の皆さんにも勧めたところ、すぐに「おいしい! これ、どこで買えるの?」と質問攻めにあった。
私もぜひ購入したいと思って知人に聞いてみたのだが、「本当に普通のおばさまが趣味でやっているだけ」で売り物ではないとのこと。しかも「栽培しているわけでもなく近所の山の梅」だそうで、さらには「落ちている梅がもったいないなと思い、傷のないのを選んで拾ってきたもので作った」という、ちょっと驚く舞台裏であった。
しかし、同時に納得。売り物の高級梅も「完熟」を見計らって収穫するはずだが、ある程度は日程を決めて摘むだろう。しかしこの梅干しは、梅の木自体が完熟を判断したもの=落ちたものなので、完熟の定義が根本から違うのである。また、それをもったいないと丁寧に選別して拾う作り手の感性…。売り物としての利益を考えたら、この方法は絶対に取れない。そういう領域の逸品だったのだ。
この裏話を聞いて余計に尊く感じ、少しずつ惜しみながら食べ、その後も毎年夏に思い返していた。そんな名人級の梅干し、なんと今年再びおすそ分けのお話が! 今から唾液が溢(あふ)れるのである。