ザ・インタビュー 人と人をつなぐ喜び実感 「もみじの家」ハウスマネージャー 内多勝康さん著「53歳の新人」
NHKアナウンサーとしておなじみの顔から、「医療的ケア児」らを受け入れる新設の医療型短期入所施設「もみじの家」(東京都世田谷区)のハウスマネージャーへという異色の転身を果たしたのは6年前、53歳になる直前だった。
医療的ケア児は長期入院し、退院後も日常的に医療的ケアが必要な児童で、もみじの家はこうしたケア児と、家族も休息するために滞在できる施設だ。
そんな異業種への転職経験をもとに、NHK退職までの半生と、転身からの日々をたどった本書。「振り返ってみると、いろいろなことがつながっていたんだなと気づきます」
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「家が貧乏だった」ことから「絶対潰れないような会社に入り、安定した収入を確保して貧乏を脱出」「結婚して一軒家に住んで子どもは3人」というのが将来の目標だった。「30代半ばで達成でき、充実感もありましたが、それまで自分のことで精いっぱいで、人を思いやることができなかった。そこで新たな目標が設定されたんです」
それが「支援を必要とする誰かをサポートする」こと。もともとディレクター志望で、折々番組作りにも関わり、初任地で縁があった「障害福祉」をテーマにしてきた。36歳のとき、自閉症の男性に密着したドキュメンタリーを作り、「人の幸せとは何かと価値観がひっくり返るような経験もした。こういう番組が人に活力を与える」とのめり込んだ。だが50代になり、こうした仕事から離れることに。
この間、40代後半に通信制で学び、社会福祉士(ソーシャルワーカー)の資格を取得。休日に福祉のボランティアをやりながら定年まで勤めるつもりでいたが、知人の福祉関係者から、もみじの家設立の話を聞き、やりがいを感じて転身を決意した。
実際、「夢のような転職先」だったが、53歳の新人には数々の試練も。①事業の計画立案・マネジメント②広報③寄付・補助金の呼びかけ-が仕事だが、まず必要なパソコンのスキル不足に四苦八苦。事務処理を聞くにも人脈がなく右往左往。果ては睡眠不足から会議中に居眠りするなど、「上からも下からも怒られ」る日々。「今でこそ笑って話せますが、自分をリニューアルする苦しみでした」
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乗り越えられたのは「この施設を守らなくてはいけない」という思い。同時に「こんな男を拾ってくれた施設の期待にも応えたい。ここを守るために自分の役割は何かと考えました」。
やがてパソコンスキルも「我ながらあっぱれ」というまでに進化。人脈も広がり、広報活動で支援をアピール、寄付や補助金で収支改善にも貢献。さらに報酬改定や、医療的ケア児家族会の全国ネット(通称・アイライン)発足もリード。「アナウンサーだったら絶対できなかったことばかり。やっと社会福祉士の働きができて、施設の一員になれた」と、人と人をつなぐ喜びと手応えを感じている。
本書では、転職の考え方や家族への相談の仕方なども紹介。出版後、NHKの元同僚たちからメールや手紙が届き、50代の後輩からは「当時の内多さんの気持ちがわかります」と共感の声も。「個人的な経験なので、他の人の役に立つかはわかりませんが、この本が50代にさしかかって、いろいろ迷っている人たちの刺激、エネルギーになれたらいい」
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うちだ・かつやす 昭和38年、東京生まれ。61年、東京大学教育学部卒業後、NHKにアナウンサーとして入局。香川・高松、大阪、東京、名古屋、仙台の放送局に勤務し、「首都圏ニュース845」「イブニングネットワークきんき」「クローズアップ現代」「きょうの料理」などを担当。平成28年3月に退職し、同年4月、国立成育医療研究センター「もみじの家」ハウスマネージャーに就任。