昭和の十勝、伝える写真集 書店・出版社が連携、地元目線で製作
全国的に書店が減少する中、本離れに歯止めをかけて地域の「読書文化」を守る方策を考えようと、市内の書店「ザ・本屋さん」と出版社「クナウパブリッシング」が2022年11月に連携した。本を「売る側」と「つくる側」の垣根を越えて事業に取り組む珍しい企画で、第一弾として昭和の写真集を出版した。
個人や企業、各種団体、各自治体の図書館などに協力を求め、約1万6000枚の写真を集め、時代的色彩の濃い街路や子どもたちの遊ぶ姿など、当時の暮らしが伝わる600枚を厳選し、写真集に盛り込んだ。
「記憶は記録することで次世代に伝えられる」との観点から、写真のキャプション(説明文)を長く、詳細に記したのが特徴。撮影時期の特定が難しい写真もあったが、監修した帯広百年記念館の大和田努学芸員(37)が、写った建物や人々の様子から丹念に時代を考察した。
11日に帯広市内で出版記念のトークイベントがあり、ザ・本屋さんの高橋智信社長とクナウパブリッシングの高原淳社長、大和田学芸員が写真集に込めた思いや発刊の意義などを説明。大和田学芸員は「身近な地域の歴史をつなぎ止め、未来にバトンタッチするための一冊になれば」と話した。
東京都内の出版社で働いていて、23年前に帯広市に「Uターン」した高原社長は「北海道の観光雑誌などを東京で出版(編集)されるのは何かおかしいなと感じていた」と振り返り、地元住民だからこそ気づく「地域の価値」を重視して取り組んだことを強調。高橋社長も「この写真集を通じて、昔があって今があるということを知り、より一層、十勝を好きになってほしい」と話した。
地元の書店と出版社、地域の歴史を掘り起こす学芸員が協力して一冊の本を製作するケースは珍しく、大和田学芸員は「地域に固有の歴史があり、それを知る地元の人が協力して製作することが重要だった。学芸員としても蓄積した情報を生かす機会になった」と総括した。
価格は1万1000円(税込み)で、3000部製作。