第38回京都賞の受賞者が発表。思想・芸術部門に美術家のナリニ・マラニ
「京都賞」は、京セラ株式会社名誉会長である稲盛和夫(1932~2022)により創設された稲盛財団が運営する、1985年に開始された国際賞。毎年、先端技術部門(エレクトロニクス、バイオテクノロジー・メディカルテクノロジー、材料科学、情報科学)、基礎科学部門(生物科学、数理科学、地球化学・宇宙科学、生命科学)、思想・芸術部門(音楽、美術、映画・演劇、思想・倫理)の各部門に1賞、計3賞が贈られるものだ。選考の対象となる候補者は、財団が年ごとに信任する国内・海外の有識者からの推薦によるもので、各部門専門委員会、各部門審査委員会および京都賞委員会の3段階からなる京都賞審査機関によって、公平かつ厳正に選定されている。
現在に至るまで思想・芸術部門では、彫刻家のイサム・ノグチ(第2回、1986)、映画監督の黒澤明(第10回、1994)、建築家の安藤忠雄(第18回、2002)、文楽人形遣いの初代
吉田玉男(第19回、2003)、デザイナーの三宅一生(第22回、2006)、歌舞伎俳優の初代
坂東玉三郎(第27回、2011)、染織家の志村ふくみ(第30回、2014)などが選出されている。
今回、思想・芸術部門の受賞者として選出されたのは、美術家のナリニ・マラニ。同賞においては「声なき者の声を届ける表現を開拓し、美術の『脱中心化』に非欧米圏から貢献した美術家」として評価され、受賞に至った。
マラニは1946年イギリス領インド帝国生まれ。翌年のインド・パキスタン分離独立時には家族とともに難民としてインドに逃れた経験を持つ。目に見えないものを可視化することに関心を寄せたマラニはムンバイで美術を学び、その後パリへと留学。帰国後は外から祖国の現実を見る経験をもってして、宗教対立や差別などの問題を抱えるインド社会に向き合うべく、幅広い層の人々に訴える表現を模索。映像、絵画、素描、インスタレーションなど多様な媒体を用いた作品を発表してきた。出展経歴には、第52回ヴェネチア・ビエンナーレ(ヴェネチア、2007)、第13回ドクメンタ(カッセル、2012)、キラン・ナダール美術館
回顧展(ニューデリー、2014)、ポンピドゥー・センター、リヴォリ城現代美術館
回顧展(パリ、2017~18)、M+開館記念個展(香港、2021~22)などが挙げられる。
なお、今回の同賞における思想・芸術部門審査委員会には、逢坂惠理子(委員長、国立新美術館館長)、笠原美智子(公益財団法人石橋財団
アーティゾン美術館副館長)、蔵屋美香(横浜美術館館長)、島敦彦(国立国際美術館館長)、建畠晢(埼玉県立近代美術館館長)、西野嘉章(東京大学名誉教授)、松隈洋(神奈川大学建築学部教授)、松本透(長野県立美術館館長)らが参加。専門委員会には、西野嘉章(委員長、東京大学名誉教授)、五十嵐太郎(東北大学大学院工学研究科教授)、植松由佳(国立国際美術館学芸課長)、後小路雅弘(北九州市立美術館館長)、四方幸子(キュレーター、批評家)、橋本優子(宇都宮美術館学芸員)、三木あき子(ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター )、鷲田めるろ(十和田市現代美術館館長)らが参加した。