桜井信一の攻める中学受験 サピックスの土俵に上がった四谷大塚 テキストは全部やるべきか?
本来はもっと話題になるほどの出来事なのですが、コロナ禍ではこの手の話題が少し停滞するようです。
中学受験を検討している皆さんなら、さすがにもう知っておきたいこの大改訂、四谷大塚は完全にイメチェンしてきたのです。難関校といえばサピックスだったのに、そのサピックスの土俵に上がってきたのです。
ピラミッドは上に行くほど人数が少なくなりますから、わざわざそこに飛び込むメリットはあるのだろうかと思いますよね? そこは抜け目がないのです。4年生の算数を見てみると、予習シリーズの上巻には基本問題、練習問題があり、夏期講習にはさらに応用問題まであります。自分の学力に合わせて学習する範囲を選択することができます。つまり、ピラミッドの下から上までを対象にしていることになります。そのピラミッドの上の部分を強化してきたというわけです。
実はここが落とし穴。保護者の気持ちになってみてください。基本問題のすぐ横のページにある練習問題、「練習」というくらいですから練習したくなりますよね。その練習問題のすぐ横にある応用問題。これはさすがにうちの子には無理と思っても、練習問題ができるのならちょっとやらせてみたいと思いますよね。
「なんだよ!結局ぜんぶやりたくなるのかよ!」となるでしょう。こんなの当たり前。どこで止めていいのかわからないし、欲が出るのも当然の話。だって、応用問題までやっている子たちとテキスト代は同じ。やらなきゃ損!となります。それが子どもをクラッシュさせてしまうのです。学力以上の負荷をかけ続けると、間違えた後それをやり直し、その間違い直しをなぞるだけの算数になります。まるで無駄。いや、逆効果。
実はそんな心配はあまりないのです。テキストが恐ろしいことになっているからです。4年生算数の上巻といえば、4年生になったばかりの子が学習するはず。ところが、そこに出てくる練習問題はもう受験レベルと思ってしまう内容。激辛なのです。4年生の夏期講習のテキストの応用問題は受験レベルどころか難関校レベル。4年生の夏といえば、筆算のくり上がりがちょっと怪しい子がいたり、104ひく9といわれて暗算できない子が普通にいたりするレベルのはず。
そんな子が計算を10回くらいしなければ答えに辿りつかない問題を論理的に思考して解けるはずがない。もうこれは絶対にない。他にもこんな問題が出ているのです。
「4桁の整数にある4桁の整数を加えた結果、電卓がこのように表されましたが、ところどころ電気が切れていて一部しか表示されません。ある4桁は何でしょう?(4年算数夏期講習復習編1)」
は?は?は? 筆算が怪しいのですよ。4桁なんてまだ慣れてもいませんよ。もうこれは夏休み早々テキストを破いていいレベル。いや確かにいますよ。4年生なのに「へ?」と思うほど回転の速い子。でもそんなのごく一部でしょ? これはかなりうまく導いてやらなければ4年生の参戦早々断念してしまいます。実際にヤフオクやメルカリには改訂版の予習シリーズの上巻にだけ少し書き込みをしたというテキストが上下巻セットで売られています。
「やっぱり、予想した通りだ。諦めたんだな」。そう思いました。四谷大塚の大改訂により、中学受験はかなり面白いことになると私は思います。ここで慌てず範囲を定めることができ、少しずつ欲を出すことができる親の子が有利でしょう。応用問題に墨塗りすることができる親の子が勝つのです。