2020年代のダムタイプが描く航路。「ダムタイプ|2022: remap」をアーティゾン美術館で見る
remap」が開幕した。本展は第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示で発表されたダムタイプの新作《2022》を再構築し、《2022:
remap》として日本初公開する展覧会だ。会期は5月14日まで。
アーティゾン美術館は2020年の開館を機に、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展における日本館展示の成果を国内で紹介するための帰国展を実施しており、今回はその2回目となる。
ダムタイプは1984年に京都市立芸術大学の学生を中心に結成され、「デジタルと身体」「ポストヒューマン」といったヴィジョンを先駆的に表現してきた。そのメンバーはつねに流動的であり、エンジニアからミュージシャンまで幅広い知見を持つメンバーが入れ替わりながら、集団として作品制作や展覧会を実現している。
本展は第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示の帰国展だが、単純な再現展示ではなく、アーティゾン美術館の6階展示室という空間に合わせてダムタイプの聴覚言語を構築し、《2022:
remap》として作品が再配置されたかたちとなった。
本展の開催に際して、ダムタイプの高谷史郎は内覧会にて次のように語った。「ヴェネチアでの展示は、新型コロナウイルスの状況もあり日本から見に来ることにハードルがあったので、今回の帰国展は(多くの人に見てもらえる)大変良い機会になった。展覧会には様々なメッセージを込めたが、来場した人が展示を見て感じたことがその人の答えになると思っている。2022年という年は、コロナを経験したうえに、ロシアのウクライナ侵攻があった。こうした状況を受け、展覧会のテーマは『時間』や『空間』となっている。共存や共有を考え、地球という空間をどのようにとらえるのか。そういったことを考えながら見てもらうのが良いのかもしれない」。
会場の中央には、ヴェネチアの日本館の展示を90パーセントの比率で模した正方形の空間がある。四方は壁で囲まれており、タワー型の機器から発せられるレーザー光が、東西南北のそれぞれの方角に置かれた4台の高速で回転する鏡によって反射している。レーザーは「What
is the Earth?」「What is an Ocean?」「What is a
Mountain?」といった赤い文字を壁面に表す。この普遍的な問いの言葉は、1850年代の地理の教科書から取られたものだという
会場では平行光線を発するLEDライト、それを反射する回転鏡、文字を映し出すレーザー装置による光が暗がりで明滅する。それらを眺めていると、国際線の旅客機から見下ろす見知らぬ集落の明かりや、フェリーから望む沿岸部の漁港の灯台といった、光によって意識するランドスケープが思い出され、本展が地理的な越境性を光によって喚起させていることに気がつく。
また、会場に遍在する音にも注目してほしい。《2022》の制作には、音楽家・坂本龍一
がダムタイプのメンバーとして加わり、サウンドを制作している。展示空間に存在する空気そのものを変化させ続けるこの音が、会場の光と様々に結びつき、鑑賞者の体験を増幅させている。
会場の中央の天井部にはLEDのヴィデオパネルが設置され、さらにその下の床には天井部のビデオを反射するように鏡が配置されている。地図や地形図と思わしき映像が天井でゆっくりと遷移しており、周囲に配置された装置が発する光の意味を解説するかのような存在に見えてくる。まるで、地名という名づけによって、世界各地の土地に意味づけをしてきた人類の歴史について問いかけているようだ。
会場を囲むように配置されたターンテーブルは、坂本龍一の呼びかけにより世界各地でフィールド・レコーディングされた音を再生している。地名をどれだけ重ねても記録できない、そのとき、その瞬間だったからこそ存在した世界各地の音が来場者を囲んでいる。
会場奥の通路を進むと、上部にLEDビデオパネルを設置した展示室がある。この展示室はヴェネチアでの展示ではなかった追加要素だ。会場全体が平行移動的な光を志向しているのに対して、この部屋のビデオパネルは上下の運動性を意識させるかたちで様々な単語が流れていく。都心のビルの6階の平面的な室内にありながらも、このビデオを見上げることで、展示空間が上に下に無限に広がっていくような印象を生み出されている。
一見、難解にも思われる展覧会だ。しかしながら会場の各装置と時間をともにし、そこで得られた知覚を鑑賞者一人ひとりの体験、そしていま世界で起こっている様々な事象がと結びつけることで、本展覧会はより個人的なもとして増幅する。いま、この瞬間に体験するにふさわしい、ダムタイプの現在地がここに実現されているといえる。