「死ぬまで作家だった」 秘書・瀬尾まなほさんが語る寂聴さん
―「その日まで」が寂聴さんが亡くなられて初めての本になる。寂聴さんはどう考えていると思うか。
文芸誌での連載が瀬戸内にとって自慢でした。講談社の月刊誌「群像」で、99歳になっても毎月連載を持ってることが自信につながってたんですね。
なので、私が体調的にもう止めた方がいいんじゃないかと、何度も伝えましたけど、「連載持てるってことは、作家としてすごくうれしいことなんだ」と言ってました。作家生活が70年以上過ぎていても自分の本が売れる、たくさんの方に読んでもらえるっていうのは何よりもうれしかったと思う。「1月になったら2人の本が出るから、先生一緒に宣伝してね」とか、「記者会見一緒にしましょうね」とか言ってたので、隣にいたら、自分のことだけでなく、きっと私のことを話してくれてると思う。並んで本が出ることに瀬戸内も喜んでくれているでしょう。
―それぞれの本で、一番寂聴さんを表している部分はどこか。
山形で泊まって年越しをした時、瀬戸内がベッドに、私が布団をひいて寝ていたんです。そうしたら上からどすんと瀬戸内が落ちてきたんですよ。
「新年早々、何が落ちてきたかと思ったらおばあさんだった」みたいな感じで書いたら、瀬戸内がこれを読んで、「こんなことあったね」って爆笑していたのを思い出します。
すごく褒めてくれて、私が書くことを面白がってくれていました。(死去する直前の昨年)9、10月にも、「私が死んだらいろいろ書くことも増えてくるだろうけれど、何でも書いていいからね」って言ってくれたのがすごく印象的でした。
「その日まで」は、私が読むと本当の、晩年の瀬戸内の心境を表しています。晩年、私が聞いてたことが、そのまま文章にも表れています。
「瀬戸内はもう、いつ死んでも、後悔はなかったんだろうな」と、つくづく感じました。いつも「早く死にたい」「早く亡くなった方、いいな」とか言ってたので、今、瀬戸内が亡くなって、皆さんがすごく惜しまれているんですけれども、これを読むと、本当に本人は何にもこの世に未練がないというのをすごく感じます。「私、書いてなかったらもっと早く死んでるよ」とも言ってたので、本当に死ぬまで作家でありたかったし、作家だったと感じます。