「全然取れると思ってなかった」第168回直木賞の千早茜さん会見(全文)
司会:では千早さん、お待たせいたしました。まず今のお気持ちからお願いいたします。
千早:よろしくお願いします。千早茜です。もう4人目だと思うので、さくさくっと終わらせようかと思ってますので質問少なめでお願いします。そうですね。全然取れると思ってなかったので、ちょっとぼうぜんとしている感じで、今、見ている景色が、ちょっとまだ脳内で処理できてない感じです。
司会:はい、ありがとうございます。ではご質問ある方、挙手をお願いいたします。はい、2番目の列の、はい、どうぞ。
記者:朝日新聞の【田中 01:19:14】と申します。千早さん、おめでとうございます。
千早:ありがとうございます。
記者:今回の作品の最後のところで、登場人物の1人の印象的なせりふで、「足搔きましょう、無為に思えても。どこにも逃げられはしないんです」というせりふがありましたけれども、これは、千早さんが作家として、あるいは1人の人間としてこういったことを実感するということはありますでしょうか。
千早:私はこの小説の、粗筋は説明しなくていいんですよね、これは、小説のウメのように過酷な人生を歩んでいるわけではないので、そんなにあがくという感じではないんですけど、自分の人生に重ねるとすれば、どちらかといえば「眼をひらいておれ」のせりふのほうが近いかなって思います。職業的なことだけでなく、やっぱり目の前で起きるものに対して目を背けたりしないで、ちゃんと見ていこうっていう気持ちはありますね。
記者:目の前で起きるというのは、例えばどういうようなことですか。
千早:大きいことで言えば社会情勢とか。あとはやっぱり、普段、小さなことでも、これはどうしてこういうことを言うんだろうとか、嫌なことあったとしても、ただ怒るだけでは済まさずに、この人はどうしてこういうふうに人を怒らせるんだろうとか、怒りってなんだろうとか、自分の気持ちとかをちゃんと分解して、決め付けずに、偏見とか捨てて見ていけたらいいなっていうふうには思ってます。それは結構、作品のテーマにもなっていくことだと思います。
記者:ありがとうございます。次です。選考委員の講評で、土と血のにおいのする筆力が千早さんならではのものであるということが、宮部さんがおっしゃっていましたけれども、そういう千早さん独自の文章の力というのは、これまでの人生を振り返って、どのようにして培われてきたと思いますか。
千早:私、まだ宮部先生の選考を、選評を全然聞けてなくて、すごい聞けるのが楽しみなんですけど、そんなふうにおっしゃってくださってたんですね。
記者:すいません、ネタバレをしてしまって。
千早:ありがとうございます。宮部先生は、私は小説すばる新人賞の出身なんですけど、そのときの選考委員でもあられるので、今回、先ほどここで選評をおっしゃっておられて、めちゃくちゃ楽しみにしているので楽しみに聞くんですけど、血と土のにおいでしたっけ。
記者:はい。土と血のにおいがする筆力というのが本当にデビュー時から千早さんならではのものであって。
千早:あ、うれしい。