相馬千秋がプログラム・ディレクターを務める「世界演劇祭2023」。掲げる「インキュベーショニズム」の実践
今回初めてプログラム・ディレクターの公募が行われ、選ばれたのは日本の相馬千秋。様々な「危機」が訪れるなか、アーティストとともに環境、社会と芸術との新しい在り方を模索し、「世界」「演劇」「祭」のそれぞれに、これまでとは異なる視座を持ち込むことが期待されているという。
さらに参加アーティストには、小泉明郎、市原佐都子、百瀬文、サエボーグ、スザンネ・ケネディ、 アピチャッポン・ウィーラセタクンらが名を連ねている。
3月29日にドイツからの中継で実施されたプログラム発表記者会見には、アンナ・ヴァグナー(世界演劇祭主催者代表)ら関係者が一堂に会した。
ドイツから参加した相馬千秋は、世界演劇祭の名に違わず世界の複数性を「分類」さえすることなく内包する「孵化主義(インキュベーショニズム)」の実践を明言。本フェスティバルに合わせてフランクフルト応用美術館を舞台に展開される「インキュベーション・ポット」についても、そのビジョンを語った。
同じくドイツから参加したアンナ・ヴァグナーは、参加する全36プロジェクトの中では、若者の視点を取り上げることを目的とした「ヤング・ワールズ」シリーズも展開されることを強調。
日本会場で登壇した市原佐都子は、『バッコスの信女ーホルスタインの雌』で6月29日のオープニングを飾る。2019年の「あいちトリエンナーレ」で初演となった同作は、今回ヨーロッパ初披露。女性のみで構成され、争いではなく混沌や複雑さを表現した、セクシュアリティとこれに関するモラルを問い直す市原の物語に注目が集まっている。
さらに、タイからはアピチャッポン・ウィーラセタクンが参加。本フェスティバルでは、「仮想現実により演劇を拡張する」ことも掲げられており、VR技術を用いたプログラムも集中している。アピチャッポンもそのひとりで、夢を見たり眠るということとVRとの親和性に着目したパフォオーマンス型の作品「太陽との対話」を披露すると語った。
「これまでと違うもの」を提案・挑戦した相馬は、記者発表会の最後に、「ここ数年のパンデミックで疲弊し、不透明で危機に瀕した社会を生きているなかで言えるのは、アートとシアターは人を癒す力を持っているということです。この場で共有した、フェスティバルを楽しむためのビジョン、『インキュベーショニズム』についてどのように解釈したかぜひ教えてください」と話した。
なお、本フェスティバルのチケット販売は、3月30日から開始。5月10日からは、美術館博物館内で実施されるイベントの予約も受け付けるという。