「民藝 MINGEI――美は暮らしのなかにある」展(大阪中之島美術館)レビュー。民藝はどのように多元化してきたのか(評:佐々風太)
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「民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある」展が、大阪中之島美術館で開幕した。会期は9月18日まで。その後約1年半をかけて、福島、広島、東京、富山、愛知、福岡の6会場を巡回する。
【柳“以降”の民藝にも注目】
本展は、思想家・柳宗悦(1889~1961)が提唱した「民藝」について、柳の存命中および没後の展開をたどるもの。日本民藝館に収蔵されている柳の蒐集品を中心に、陶磁器・染織品・ガラス工芸など、約150点を展示している。
展示は3章で構成されている。第1章「1941生活展-柳宗悦によるライフスタイル提案」、第2章「暮らしのなかの民藝-美しいデザイン」では、柳の存命中に焦点を当て、彼が日本民藝館で行ったモデルルーム型展示の再現を試みるとともに、「衣・食・住」を切り口に柳の蒐集品を整理する。
本展が特徴的なのは、1961年に柳が没した後の民藝をめぐる動向について、第3章「ひろがる民藝-これまでとこれから」で取り上げていることだ。
本展監修の美術史家・森谷美保は記者内覧会にて、「近年、民藝に関する展覧会が美術館で繰り返し開催されてきたが、柳宗悦の生涯をたどるものになりがちだった」と語る。それを踏まえた本展第3章では、まず、民藝運動同人の濱田庄司(1894~1978)、芹沢銈介(1895~1984)、外村吉之介(1898~1993)が1972年に出版した『世界の民芸』(朝日新聞社)を紹介。同書で扱われた北米、中南米などの器物を展示している。続いて、大分県(小鹿田焼)、兵庫県(丹波布)、岩手県(鳥越竹細工)、富山県(八尾和紙)、岡山県(倉敷ガラス)という、5つの産地の現代の動向について紹介している。また最後には、近年民藝をめぐって独自の観点からプロデュースを行ってきた、MOGI Folk Art ディレクターのテリー・エリスと北村恵子の動向を取り上げている。本展は「柳宗悦の民藝」をたどるとともに、「柳宗悦以外の民藝」をたどるものでもある。
【「暮らし」のための民藝展】
2021年から22年、東京国立近代美術館では、「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」が開催された。同展と今回の「民藝 MINGEI」展では重複した展示品も目立つが、このふたつは、コンセプトにおいて、また展示空間において、好対照をなすと言ってよさそうだ。分析的な視点を重視し、多くのキャプションとともに柳らの活動や思想を検討していた「民藝の100年」展に比べると、「民藝 MINGEI」展はすっきりとした展示空間を特徴とし、きわめて素朴に、柳らの蒐集品や言葉を紹介していくものだ。
少なからぬ研究者や批評家が留意するであろう、柳らの思想における美術と工藝の区分の問題や、作家と職人の区分の問題、「中央」と「辺境」の関係性の問題には踏み込まず、それらが解消される日々の「暮らし」の位相が重視される。「あまり難しいことを考えず」鑑賞してほしい、という記者内覧会での森谷の言葉は、それを端的に示す。批判的な視点で民藝を見たい来場者には物足りないかもしれないが、説明的でない会場構成は清々しく良質であり、斜に構えることなく民藝の世界に出会いたい人にはうってつけの展覧会だろう。