「暗いほうが心が揺さぶられる」 闇の中から浮かび上がる“日常”を撮り続けてきた写真家・山田省吾〈dot.〉
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いったい、山田さんは何を写そうとしたのか?
「そうですね、ぼくも説明に困るところがあって……。というか、説明にならへん。若いときは真面目なんで、社会的なドキュメント思考があるじゃないですか。何かを説明できる明確な写真が全体の7割くらいはあったと思うんですけど、今はそういうのを捨てている。その場、その場で、何か目の前のことが面白かったら写真を撮る。そんな感じですね」
「諸星大二郎の漫画みたいやん」
7月1日から入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催する写真展「影の栞(しおり)」は、山田さんが写真学校を卒業してインドを旅したときの作品から最新作まで、25年あまりのスナップショットの集大成的な展示だという。
撮影地は地元の関西、パリ、インドとばらばらだが、不思議と違和感を覚えない。
山田さん自身も、「パリに行って撮ったとか、インドで写したというような場所の意識は薄いんですよ」と説明する。
「例えば、パリの地下鉄の駅で写した写真。これを選んだとき、諸星大二郎の漫画みたいやん、と思った」
諸星さんは何げない日常に潜む悪夢や、破局の足音が聞こえる近未来などを描く漫画家である。
「背景に対する人の大きさとか、顔と体の比率とか。諸星大二郎みたいな写真が撮れたな、という感じで、パリをあまり意識していない。まあ、どこへ行っても路地裏とか、人が普段生活しているような場所、というところでどっかつながってるんちゃうかな」
インドでの暗い体験
1997年、大阪の写真学校を卒業したばかりの山田さんはインドを訪れた。すると、ニューデリーに到着した直後、悪夢のような体験をした。
真夜中の空港を出た途端、声をかけられ、タクシーに乗せられた。連れて行かれたのは事務所のような場所だった。
「そのとき、他に日本人が何人かいたんですが、旅慣れた人たちは事務所からどんどん出て行った。だけど、ぼくは英語がしゃべれないし、どうしたらいいかわからなくて、最後まで残ってしまった」
行くつもりのないカシミール地域を訪れるツアーの代金を支払わされた。わけもわからないまま郊外の民家に連れ込まれた。ようやく逃げ出して金を取り返そうと警察に訴えたが、無駄だった。
「英語もしゃべれない面倒なやつがきた、という感じだった。それで諦めた。心を閉じてしまい、写真を撮ろう、という気にはなれなかった。街を歩くとまとわりついてくる物乞いがすごくうっとうしくて、近寄るな、って感じでした」