いま改めて振り返る、 柳本浩市の足跡。
デザインディレクターとして商品の企画開発や展覧会プロデュースなどを手がける一方で、個人的に書籍や雑誌はもとより、チケット、郵便小包、商品タグなど、ありとあらゆる分野のものを収集し続けていた柳本浩市。総数50億点とも言われる膨大なアーカイブを独自の手法で整理、分類しながら、柳本はその裏側にある歴史や社会的背景を読み解き、広く活動に活かしていた。
そんな柳本が、2016年4月に急性虚血性心不全のため突然他界してしまった。卓出した才能を追懐しようと、親交のあったディレクターやデザイナーが協力。翌年の4月29日~6月4日、東京・自由が丘で展覧会『柳本浩市展 “アーキヴィスト─柳本さんが残してくれたもの”』が開催されたが、その圧巻の内容は生前の柳本の活動を知らないものの心までも震わせ、想像を超える人数が会場に足を運んだ。
「反響が大きかったこともあり、展覧会が終わる頃には、なんとかしてこの内容を記録に残しておけないだろうかと柳本浩市展実行員会のメンバーで話していたのですが、出版社との交渉がうまくまとまらず頓挫。しかし、改めて自分たちだけの力で出版してみようと2年前に再始動したんです」
『柳本浩市 ARCHIVIST』の制作背景を語るのは、展覧会のキュレーションに続き、本書の編集を担当したデザイナーの熊谷彰博だ。生前の柳本が頭のなかで何を思い描き、日々アーカイブを分類、整理していたのか。メンバーと意見を交わしながら、その軌跡を丁寧に探っていった。
「柳本さんのアーカイブはありとあらゆる分野にまたがっていましたが、品物よりもそれが生まれる背景、つまりは歴史や社会情勢、経済活動、デザインの潮流といった情報の収集に力を注いでいました。一定の距離を保ちながら、物事を冷静に俯瞰していた柳本さんの姿勢を本の形に表すにはどのようにしたら良いか。僕たちも改めて考える必要があったのです」
自宅に残されていた1,000冊以上のファイルに目を通しているうちに、熊谷はある手法を思いついた。
「展覧会で紹介したアーカイブのすべてを本の中で紹介することは不可能ですし、僕たちが意図的な編集をするのもちょっと違う。ならば展覧会の内容を参照しつつも、制作メンバーの個々の柳本さん像に自由に委ねることで、多様な糸口を残した柳本さんの輪郭が浮かび上がると思ったんです。そして大きな作りとしては、ファイルを閲覧できた展示を、記録集で再体験できるようにしました」