【町田康×こうの史代】関西弁とボールペンで「古事記」を表現したら、神話の世界が身近になった!
約1300年前に書かれた日本神話を現代に生まれ変わらせた、町田康さんの『口訳 古事記』が話題です。本書の刊行を記念して、町田さんと、漫画『ぼおるぺん古事記』の著者・こうの史代さんの初対談が叶いました。古事記の世界を関西弁で口語訳した町田さんと、ボールペンで漫画化したこうのさんに、古事記の魅力と、それぞれの表現方法について語り合っていただきました。(「コトゴトブックス」で配信中の全編動画から、一部を抜粋してお届けします。)
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町田 『口訳 古事記』を出したことでいろんな取材をしていただいていると、まず聞かれるのが、「なんで古事記やねん」と。なので今回は僕がまず聞いてみたいんですが、こうのさんは「なんで古事記」だったんですか?
こうの 古事記はもともと大好きで、いつか漫画にしたいと思っていたんです。最初に好きになったのは小学一年生のときで、『日本の昔ばなし』という子供向けの本に古事記が載ってたんですね。なにが面白かったかって、イザナギとイザナミが出会って日本の国が出来ていくところとか、大国主命(オオクニヌシノミコト)が何回も死んで生き返るところ。あとは、天照大御神(アマテラスオオミカミ)と天宇受売命(アメノウズメノミコト)、ヒロインがふたりいることもインパクトがありました。
町田 「自由さ」みたいなものを当時から古事記に感じていたんですかね?
こうの そうですね。そのあと鈴木三重吉の『古事記物語』を読んで、難しいながらも全体の形をより理解していきました。子供向けの本ではカットされている──例えば、(天の岩戸の前で)天宇受売命が踊ってるシーンが、大人向けの本ではもっと原初的に描かれていることなんかも分かってきて。
町田 よりエグいというか。
こうの 残酷なんだけど、そのぶん笑いどころもいっぱいあって。そしたらもっと好きになっちゃいますよね。
町田 つまりこの『ぼおるぺん古事記』には、人生一貫して古事記が好きだった思いや、折々で印象に残ったシーンが、水脈のように出てきたというわけですね。
こうの そうですね。
町田 僕も最初は、子供向けに書かれた『物語日本史』という本を読んで面白いと思ったんですけど、やっぱり抜粋というか、途切れ途切れになってるから、繋ぎ方がわりと無理やりなんですよね。「なんでこうなんの」という展開がけっこうあったんです。ずっと意識していたわけではないんですけど、「一言主の神」(『浄土』所収)という小説を書いたときに、古事記を調べたことがなんとなく残ってて、日本の通史みたいなものを小説の文体でやったらこれは面白いやろなと。でも歳もけっこういってますから、どこまでいけるかわからんけどとりあえず古事記からやと思って、これを書くに至ったとこういうわけです。