21世紀国際書展特別大賞 自分らしく発想を大事に 自民党総裁賞・小林瑶風さん(74)
今回選んだ「鳥啼(な)く歌」は、明治時代に新聞が新たな「いろは歌」を募集した際に第1位に輝き、いろは歌の47文字に「ん」を加えて作られている。その文字数を表現するには紙いっぱいに書くことになり、普段はそのような書き方はあまりしないというが、「挑戦しよう」と筆をとった。
「見やすいように」。そう心がけ、とくに「掠(かす)れ」にこだわった。テーマ選びも含めて要した期間は約1カ月。「短い方ですよ」と朗らかに笑う。
書と向き合うのは自宅にある3畳の部屋と、居間の板の間。1日の家事を終え、家族が寝静まった午後11時ごろから数時間、没頭する。その時間帯は「邪魔するものがない」。締め切りが近いときは、午前4時ごろまで筆をふるう。
書道を始めたのは30歳のころだった。結婚して横浜に移り住んで2人の子供を授かり、家事、育児の毎日を送る中で何かやりたいと考えた。書道は「小学校の時から嫌いじゃなかった」。筆と紙があればできる手軽さから、年齢を重ねながら続けられると思ったことも大きかった。
子供が成人するまでは書道教室を休むこともあったが、辞めたいと思ったことはない。「書道には墨も、紙も、筆も、字体もあって、興味が枝葉みたいに広がって尽きない」。そんな自身の飽くなき探究心を「欲張りなんですよ」と評する。
40年を超えた書の道で軸となっているのは、師事した女性書道家の先生からもらった言葉だ。「書を見て、誰が書いたか分かるようじゃダメよ」。書き手が分かるような作品は成長が止まっている証しであるというメッセージだった。自由な作風を重んじる先生から薫陶を受け、「自分らしさ」と「成長」のために励み続けた。
数年前から指導する立場になり、横浜と鎌倉でそれぞれ月に2回ずつ書道教室に立つ。自身が先生から教えられたように「なるべく自由に、それぞれの発想を大事にしたい」。作品作りでは、まずは生徒に自由に書いてもらい、そこから構成や字づらについて指導している。
自民党総裁賞受賞には喜びとともに、作品をもっと良く仕上げられたのかもしれないという思いを抱く。「正直、今まで満足できた作品はない。それは悔しい」と振り返った上で、こう意気込む。
「どこまでできるか分からないけど、ずっと書に関わり、自分の満足できて、納得いく作品を作りたい」。高い向上心と意欲を見せ、書の道をこれからも進んでいく。
(梶原龍)
■こばやし・ようふう 昭和24年2月23日生まれ。東京都足立区出身。小学生の時に書道教室に通い、結婚、出産を経て再び書道を習い始める。受賞を聞いたときは、「まさか自分が」と驚きとうれしさがあったと振り返った。「作品をもっと大胆にしていきたい」と語るなど書道を追求する姿勢を見せる。21世紀国際書展の国際賞などの受賞歴がある。